先日、あるご相談をいただきました。お父様が亡くなり、相続人である息子さんと娘さんが、お父様の家を売却することになったケースです。手続きを進める中で、司法書士から驚きの事実が伝えられました。お父様には離婚歴があり前妻との間にお子さん(AさんとBさん)が2人いたのです。息子さんと娘さんは、この事実をまったく知りませんでしたが、相続手続きを進めるためにはAさんとBさんにも協力してもらわなければなりません。
今回のようなケースは決して珍しくありません。家族構成が複雑化し、相続人が思いがけず増えることはよくある話です。特に「知らなかった親族」の存在が判明すると、トラブルが生じる可能性が高まります。こうした問題が発生した場合の解決方法と事前に防ぐ方法を説明します。
相続放棄とお金の分配
相続放棄を依頼する
AさんとBさんに相続放棄してもらう方法です。これにより、息子さんと娘さんだけで家を売却し、その代金を分けることができます。
メリット
- 家の売却がスムーズに進む
- 他の相続人とのやり取りが減る
デメリット
- AさんとBさんが相続放棄に同意しない可能性がある
- 相続放棄は裁判所での手続きが必要
売却したお金を分配する
もう1つの方法は、家を売却し、その代金を相続割合に応じてAさんとBさんにも分配することです。
メリット
- 相続放棄の手続きが不要
- 比較的話がまとまりやすい
デメリット
- 売却代金が減るため、息子さんと娘さんの取り分が少なくなる
- 相続人全員での協議が必要
事前に防ぐ対策
今回のケースを回避するためには、事前の対策が非常に重要です。特に遺言書の作成や家族信託の活用は、相続トラブルを未然に防ぐ効果的な手段です。それぞれの具体的な方法について説明します。
遺言書の作成方法と費用
遺言書には大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。それぞれの特徴と作成方法、費用、依頼先を見ていきましょう。
1.自筆証書遺言
- 手続き方法:自分で紙に遺言内容を書きます。
- 依 頼 先:基本的に自分で作成しますが、専門家(司法書士・弁護士)に内容を確認してもらうと安心です。
- 費 用:ほぼ無料(専門家に確認を依頼する場合は数万円程度)
- 所 要 時 間:1日〜数日
- 注 意 点:自筆証書遺言は形式不備があると無効になる場合があるため注意が必要です。また、紛失や改ざんリスクもあります。2020年からは法務局での保管制度も利用できます。
2.公正証書遺言
- 手続き方法:公証役場で公証人が遺言書を作成します。証人2名の立ち会いが必要です。
- 依 頼 先:公証役場(司法書士や弁護士にサポートを依頼することも可能)
- 費 用:5〜10万円程度(遺産総額に応じて異なります)
- 所 要 時 間:数週間(公証役場での打ち合わせが必要)
- メ リ ッ ト:無効になるリスクが少なく、紛失の心配もありません。
家族信託の具体的な手続きと費用
家族信託は比較的新しい制度ですが、柔軟な財産管理が可能です。特に不動産の管理や将来の相続対策として注目されています。
家族信託についてはこちらをご覧ください。
- 手続き方法:信託契約書を作成し、登記手続きを行います。信託契約書には信託財産の内容や管理方法、受益者(財産を受け取る人)などを詳細に記載します。
- 依 頼 先:司法書士、弁護士、税理士、信託専門コンサルタント
- 費 用:50万円〜100万円程度(契約内容や財産規模により異なります)
- 所 要 時 間:1〜2か月(信託契約書の作成や不動産登記がある場合)
- メ リ ッ ト:認知症対策になる(財産凍結を防止)、相続人同士の争いを防ぐことができる、生前に財産管理を柔軟に行える
家族信託は特に不動産を所有する方におすすめの対策ですが、契約内容が複雑なため、専門家のアドバイスを受けるようにしてください。
まとめ
相続は想像以上に複雑で、思わぬトラブルが発生することもあります。今回ご紹介した解決方法や事前対策を参考に、少しでも安心して相続手続きを進めていただければと思います。
ただし、相続の状況は一人ひとり異なります。最適な解決方法を見つけるためにも、専門家である司法書士や弁護士に相談することを強くおすすめします。